訳す、ということ

私は英語が得意なわけでも好きなわけでもないけれども、新聞記事なんかを見ていて「あ、これは元々英語の記事を日本語に訳したんだな」というのが分かることがある。まぁ誰だって気づくときは気づくと思う。
" I love you. "は「月がきれいだね」と訳せ…というのは、英語教師でもあった文豪夏目漱石の言葉らしいが、日本語として不自然な表現、日本人が言わなさそうな言葉は訳としてはダメだと思うのだ。「愛してる」などというセリフは、明治の日本人にとっては不自然だったのだろう。thank you.だって、「ありがとう」じゃなくて「すみません」と訳すのが適当な場合があると思うのだ。列車内で席を譲ってもらったときには、日本人は「すみません」と言うのが自然な気がする。
訳が不自然だな、と強く感じることが多いのは、メジャーリーグ関連の記事である。たとえば、

時速144kmを超える速球

って表現。要するに「時速90マイルを超える直球」なわけだが、これをキロで言い換えるなら何らかの切りのいい数字でないと不自然である。論理的には多少不正確であっても、「140キロ台後半に達する速球」などのほうが正しい訳だと言えまいか。そりゃ、たとえば「今日最速の時速153km」という風に、点としての表現なら問題ないんだけれども、幅を持たせた表現にするときにマイルとキロでは*1どうしてもずれてくる。今日見た酷いのは

時速128km台のフォークボール

…。これは松坂のフォークについての記事だったんだけど、128km台ってのは128.0〜128.9kmのことか?えらく厳密な計測だな。時速80マイル台と言えば、80〜89マイルということになるから、128キロ〜143キロとして、思い切って「時速130km台のフォークボールとか、実際には彼のフォークは135km/hを超えることはあまりないんだから「130km前後の」とかさ。
あくまでも原語に忠実にということでこんな表現が出てくるんだろうけれども、原語に忠実に訳すことで、逆に実態から遠ざかることもある。言葉を見て訳すのではなくて、言葉が表している実態について自分ならどう言うかをもう少し考えてほしいな。それで飯食ってるプロなんだから。

*1:一発変換では「参る」と「帰路」…行き帰りになっているあたりはおもしろかった