十年一日(終章)

序章 本編 終章

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「もう10時だよ」

…うーん。声の主はじぇふ氏。そういえば学生時代もそうだったかな、大勢で騒いだり潰れたり眠りこけたりしている中で、スケジュールが破綻しないようきっちりと、だらだらにならないようにみんなを導いてくれるじぇふ氏。これまで何度、無理なリクエストをしてきたか分からないが、その全てに「うん、まぁいいけど」と応えてくれた、そんな彼がいなければ我々は単なる無秩序集団だったかもしれない。ちなみに千葉県出身のじぇふ氏とS女史は今もなお関西風の言葉を使わず、関東人としての矜恃を保っている。これは敵ながら見事と言うほかない。
チェックアウトは11時。朝ご飯などを欲する人間は一人もいないが、せっかくの大浴場を利用できなかったことを悔やみつつ、部屋備え付けのユニットバスでシャワーを浴びる者が数名。大量に買い込んだ飲料とお菓子がだいぶ余ってしまったので、このあと故郷の鹿児島へ向かうという総代Kのキャリーバッグに無理矢理押し込む。知らずに持とうとした総代、「重っ!」そりゃそうだ、350ml缶が8本入ればそれだけで3kg近い。
イムリミットは人それぞれだが、昼ご飯を食べて少しぶらぶらするくらいの時間はあるようだ。さぁ、どこで何を食べる?当然、思い出と思い入れのある店ということになるわけで、何となく自然と、京大生協ルネに行くことに決まった。7名は車とタクシーに分かれて、ルネへ向かった。

久々のルネ

ルネの横では破戒僧Nの後輩・京大吹奏楽団の団員たちが練習していた。どうやらBOXがこっちに移転しているらしく、Nは「ちょっと見てくるわ〜」とジャーナリスト魂…いや職業病の発作が起きたらしい。10年も前に卒業したOBが前触れもなく訪れてきたら、団員たちは戸惑うものだと思うが…おかまいなしに話しかけ、BOXにお邪魔し、写真を撮ってきた。
そんなNを待つわけでもなく、我々はルネ内へ。懐かしのメニューと期間限定メニューはたくさんあったが、定着した新メニューは少ないようだ。10円値上がりしたささみチーズフライを頼むつのさん。頼もうとしたものがことごとく品切れの私。それぞれ思い思いの品を食べつつ、周りの若者たちの様子をうかがう。無線LAN環境が整い、ノートPCを持ち寄って議論するなど当時は考えられなかったが、当時からある野球サークルの名前などを聞くと何となく懐かしかったりする。
若者の賑わいが増して来たルネで、忘れてはならないものがある。それはパフェ!材料はほぼ缶詰レベルで決して美味くはないんだが、ないと物足りない、そんな駄菓子のような存在かもしれないルネパフェ。12時にパフェコーナーがオープンするや否や、甘党のZAX、私、そして破戒僧Nは砂糖に群がるアリンコさながら欲望のままに注文。つのさんも食べようかと思ったらしいがZAXの肉付きを見て思い止まった」らしい。さすが最年長、アラフォー一番乗りの老練さがにじみ出ている。そんな周囲の目はお構いなしに、10年前と同じ(自称)可愛い雰囲気でパフェを平らげたZAX氏。これでまた一回り、人間的に成長して円熟味を増すに違いない。
私としては、パフェの底に入れられているコーンフレーク(砂糖なし)がコーンフロスト(砂糖あり)に変わっていた*1ことに大いなる衝撃を受けたのだが、みんなにとっては特にどうでもよかったらしい。なぜだろう。
そうして店が混み始めたところで、そろそろブラブラしようかとルネを出ることにした。

吉田山散策

7人で移動するには交通手段が足りず、レンタカーを借りるほど時間もない。自転車を7台手配するのも容易ではない。「じゃ、この辺歩こか」消去法的に、あてもなくそぞろ歩きをすることに決まった。
まず見慣れたというか見飽きたはずの時計台前で写真撮影。誰かにシャッターを押してもらおうかと言うとなぜか外国人に的を絞って探し出すZAX。いやそこにいかにも観光客なオッチャンいてますやん。撮ってもろたらよろしやん。
(写真のせたい。提供希望)
吉田神社へぶらりと向かう。節分祭に行ったことのない人間はいないが、案外テキ屋巡りで満足して、本殿を見たことなかったりする。今年惜しくも合格ならなかったZAX弟の合格祈願でもしようかなどと話しつつ、ざくざくと砂利道を歩く。原生林から吹き下ろしてくる風が心地よい。マイナスイオンとやらは最近めっきり聞かなくなった気がするが、木々を吹き抜ける空気や沢を流れる水にはやっぱり何かあるんだろうな。
おみくじを引いたり、奉納された絵馬を眺めたりしつつ、誰かが言った「何か、思ってたよりええなぁ」は、みんな同じ思いだったかもしれない。
ZAXとじぇふ氏はここでタイムリミットを迎え、離脱。彼らがいなければこのイベントはうまくいかなかっただろうな。再会と次回の開催を固く誓い、残るは破戒僧N、つのさん、べんりT、総代Kと私の5名になった。

真如堂

東に歩いて吉田山を越え、適当に歩いていると立派なお寺が見えた。とりあえず行ってみよう。すると左手に神明鳥居を発見。「陽成天皇神楽岡東陵*2」らしい。陽成天皇、事蹟はあまり有名じゃない(後陽成天皇は秀吉を関白に任じたことでメジャーかも)ように思うけれど、小倉百人一首

つくばねの 峰よりおつる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる

陽成天皇の御製だと後で思い出した。天皇陵がこんな近くにあったことも誰も知らず、少し歩いて着いたのは真如堂。紅葉の時期にはとても綺麗で、永観堂に劣らず有名なはずなんだが、これまたみんな物珍しそうにしている。女子ならこのあたりも散策してそうだが、男どもは当時あまり興味がなかったようだ。

「いろいろええとこあるねんなぁ、学生時代にも来とけばよかったわ。なぜオレはあんな無駄な時間を…!

などと言いつつ境内を散策、池を泳ぐ亀をのんびりと眺めたりして過ごした。安西先生、学生時代に戻りたいです。

また会う日まで

そろそろ時間だ。名残は尽きないが、明日は月曜日。総代Kはこれから鹿児島の実家に帰り、活発な新燃岳を眺めて過ごすらしいが、みな社会人としての日常が待っている。そんな多忙な中、これだけの人数が江戸や出雲の地から上洛して集まれたことの意味は大きい。

「また、集まろな」

その「また」がいつになるかは分からない。1年後か、3年後か、また10年後かも知れないけど、その時もきっと、このメンツ揃えば よみがえる19歳。でもちょっとだけ変わったみんなとまた集まりたいところだ。
ちょっと張り切りすぎて疲れたけれど、楽しかった。楽しかったぞー。

*1:ちなみに今日南武生協で食べたパフェは砂糖なしのコーンフレークだった

*2:ようぜいてんのうかぐらおかのひがしのみささぎ