播州弁講座

amuiちゃんのブログで方言話が盛り上がり、岐阜弁が紹介されていたので、こちらも負けじと「日本一汚い言葉」と自嘲自称する播州方言をちょっと紹介してみる。ただしamuiちゃんと違って私は非常に理屈っぽくまた言語学という学問をかじった身であるため、やたら説明口調になりそうなのが怖い。
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関西弁てそんななんもかんもごっちゃにした言い方せんといてほしいわ。京都も大阪も神戸も、はっきりゆうてぜんぜんちゃう言葉やで。川一つ渡っただけで通じへん表現もぎょーさんあるし、イントネーションかってちゃうねん。中学がワタクシリツやって、そん時初めて姫路以外の人と喋るようになったんやけどな、神戸の子ぉらが時々アタマにはてなマーク浮かべよるんよ。こっちは「何で分からへんねん、『ごーわく』は『むかつく』に決まっとーやろが」てなるわけ。先生が「何しょるんどい!」って怒っとっての時でも、怒られとんやろなっちゅうことしか分からへんかったりしとったなぁ。おかんの実家なんか行ったらまた言葉変わって、姫路ではじーちゃんばーちゃんしか言わへんような言葉を5歳の子供がつこーとる。「大工さんがえーがいしてくれよってんや」「ほんにおーきなおうちがでっきょるなぁ」
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京都では聞かない言葉たち

何どい
「何だよ」に近い。「〜どい」は疑問詞につけて使い、語気が強まると「何でどいや」「誰どいやぃ」となる。
おせらしい
大人びた。「あらぁちひろちゃん、おせらしなって〜」
あっかい
だめだ。「あかん」は「あく」の否定だが、「あっかい」は「あくかよ」、つまり反語と言える。なぜ「飽く」の否定がダメだという意味になるのかは長くなるので割愛。「んなもん、あっかいや〜」
えーがい(に)
上手に。きっちりと。「ええ具合に」ということ。
どんぶりがえる
ひっくりかえる。「高速走っとったら、前の車がどんぶりがえってのぉ!」(実話)
ずつない
動けないくらい苦しい。「術ない」から。「食べ過ぎてずつないわ〜」
せんどぶり
久しぶり。「せんども見んかったなぁ」と言うと「久しく会わなかったねぇ」という意味。
でぼちん
おでこ。「でぼちん赤いで?」「せやねん、蚊ァに噛まれまわってなぁ」
ちょける
ふざける。「お前、ちょけとんか」と言われたら謝った方がいい。
べっちょない
だいじょうぶだ。「別状ない」から。「血ィ出とんで!」「あぁこんなもん、べっちょないべっちょない。ねぶったら治るわ」
ねぶる
なめる。普通の「なめる」よりちょっとしつこい感じがする。「おばあちゃん、本読むとき指ねぶらんとき」

播州方言における「〜よる」と「〜とる」の区別について

西の方の方言では、標準語の「〜ている」に対して「〜よる」や「〜とる」が用いられます。

  • 大阪…「してる」が主。「しとる」も地域により有、「しよる」は主に「しやがる」的な意味
  • 京都…「したはる」が主。「しとる」「しよる」はあまり聞かない
  • 神戸…「しとー」が主。「しよる」系は聞かないような気がする
  • 岡山・広島…詳しく調べたわけではないが「しょぉる」が主っぽい。「しとる」系は使わない?

そして、神戸と岡山の中間地点に当たる播州地方には「しとる」「しよる(しょる)」がともに用いられているのです。いくつか例文を見せましょう。

  1. 「あいつどこ行っとったん?」
  2. 「あいつどこ行っきょったん*1?」
  3. 「あいつどこ行きよった?」

これら全てニュアンスが違います。まず3.は「どこに行きやがった!」という非難の意味を表します。イントネーションも違う上、「行っきょった」となることも少ないので、まず除外。1.と2.の違いはというと、1.だと「あいつ」は発話者の視界におらず、「あの時どこにいたの?」というニュアンスを帯びます。2.は、「あいつ」がてくてくと歩いている姿を見た発話者が「あの時、どこへ行こうとしていたの?」という気持ちで発話します。
もう一つ例を挙げましょう。

  1. 「あそこ、ごっついのん建っとーけど、何やろ?」(建っとる)
  2. 「あそこ、ごっついのん建っちょーけど、何やろ?」(建ちよる)

1.はすでに建物は完成済みと認識される場合に使われ、2.はまだ建設途中の場合に使われます。
また、「寝とる人」は起きていませんが「寝よる人」は半分起きてる、寝ようとしている人のこと。赤ちゃんのいる家では実に便利な表現です。
ということで、播州方言における「〜とる」は進行中の事象を指し示しつつその結果状態に焦点を置く、つまりなじみ深い用語だと英語の現在完了に近い感じで、「〜よる」は事象が開始した瞬間から進行している状態にかけて表現すると言えます。

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やっぱし長ごなってもた。

*1:「〜しよる」は「〜しょる」等、イ段の音に続く「よ」は拗音化することが多いが、その際音数が減って短くなることを嫌い、前方に「っ」が補われる。これは「代償延長」という現象の一つ