怪人・グミ男

私は毎朝JR常磐線北柏駅から、東京メトロ千代田線への直通運転となる各駅停車に乗り、二重橋前駅へと向かい、逆のルートで帰宅する。行きは空席に出会える確率も高いのだが、帰りはやはり大混雑のため、そうそう座れるものではない。が、今日は2駅目、新御茶ノ水から奇跡的に座れることができ、即・眠りに落ちた…。
目が覚めたのは新松戸あたりだったろうか。Yシャツの裾が視界に飛び込んできた。
は?
見上げると、20代半ば〜30くらいだろうか、180cm・100kg超級の巨漢が口をもぐもぐさせている。彼のお腹は見事にベルトに乗り上げ、こらえきれず裾が飛び出した、といった感じだった。
一気に目が覚めた。こいつ何喰ってんねん?右手には何やら小さなアルミ箔タイプのプラ製の袋が握られている。おつまみピーナツを想像してくれると分かり易いだろうか。しかしそれはピーナツではなく、なんと三ツ矢サイダーのグミキャンデー。袋に残っていた何個かを、飲み干すように口に流し込み、むくちゃ、むくちゃと噛みしめている。
何だか幸せそうな表情だ。心なしかほっぺも紅潮している。
そらあんた肥るで、と心の中で呟いた直後、更に驚くべきものを見てしまった。それは彼の左腕に輝く、腕時計。casioの計算機能付き時計だった。20世紀に絶滅したと思われていた名器が、目の前で時を刻んでいるのである。
しかし、君の指ではそのボタンは押せないだろう?
そう彼を諭そうとした瞬間、列車は駅に到着。大勢の客が降りる中、彼は私に背を向け、空席へと向かっていった。その背中は、やはり裾が見事に出ていたのであった…。