父が歯を抜いた

オトンネタ。うちのオトンは63歳の今も目薬を自分で差せなかったり、63年間一度も注射針が刺さっているところを見たことがなかったり、かなりのヘタレなのだが、また一つへタレエピソードを生み出したようだ。
ある日、歯医者に行った父。麻酔をし、歯を抜いてもらったらしい。当然のことながら診療台ではずっと目をつぶっていたとのことだが、抜かれた歯にかぶせたり埋めたりした痕があったのを見て、わしの知らん間に直してあると思ったらしい。
それはただ忘れているだけだろう、いくら何でも口中で起きた出来事に気づかぬはずがない…と思うのが普通であるが、どうも父は口中で起きた出来事を記憶から消してしまっているのか、そもそも脳への入力を遮断しているようなのである。
「抜いた痕は舌でなめたり、触ったりせんといてね〜」と歯医者に言われたのを忠実に守った父は、翌日母にこう言って口を開け、下の歯列を見せた
「ちょっと、抜いた痕どないなってるか見てくれへんか。右の奥歯や」
ところが、母が見たところ歯はすべて揃っている。次の瞬間、衝撃の一言が父を襲った。

「お父さん、抜いたん上の奥歯やろ」

上の歯と下の歯のどっちを抜かれたのかさえ分からぬほどに、歯医者が怖いか、父よ。