引き分け再試合

夏の甲子園佐賀北(佐賀)vs宇治山田商(三重)は延長15回を戦い抜き、引き分け再試合--。昨年のように決勝戦だというなら、再試合も分からないではない。しかし、まだ2回戦だというのに再試合を行うのはいかがなものか?
再試合ということは、また一から試合を始めるということである。つまり9回まで終わらせることが前提となるし、前の試合でベンチに退いた選手をまた使うことができる。前の試合で10回まで投げた投手をまた先発させ、9回完投させることもあり得るということだ。もちろん、信頼できる二番手・三番手の投手がいればその投手が先発するだろうし、都市部の高校ならそういった投手がいなければ勝ち上がることができないが、参加校数が少ない県の代表校の場合、一人のエースに頼る可能性は否定できない。現状では、選手生命を脅かしかねないこのような選手起用を強制的に止めることはできないのだ。
元中日(現タレント)の板東英二は地方大会で延長24回を投げたといい、それがもとで延長18回引き分け再試合というルールができた。さらに甲子園でその延長18回を一人で投げ抜き、25個の三振を奪って相手を完封しつつも引き分け再試合、翌日も9回を投げ抜いて勝った*1。現行の延長15回引き分け再試合というルールは、あの松坂大輔横浜高校時代にPL学園と演じた延長17回の大熱戦、250球完投がきっかけで定められた。このように、高校球児の身体への悪影響を防ぐために徐々にルールは定められているが、心身を削って戦う姿に美を見いだす日本文化のせいか、スポーツ医科学的に考えればまだまだ正気とは言えない水準だ。順当に勝ち進んだとしても相当な酷使になるというのに、延長15回の後に再試合など論外と言っていい。そもそも、引き分けは野球の公式ルールにはないのである。
ただ、再試合はよくないと言っても、ジャンケンで決めろと言っているわけではない。公認野球規則にきちんと記載された、もう一つの解決法をとることはできないのかということだ。それはサスペンデッドゲーム。これは一時停止試合とも言われ、いったん中断した試合を後日再開するという形である。つまり、1回から試合を始めるのではなく、延長16回から始めるというイメージだ。そのため、いったんベンチに退いた選手はもう出場できないし、再開直後のイニングに得点があればそこで試合が終わることも考えられる。サッカーで言えば、後日ゴールデンゴール*2方式の延長だけを行うということになる。現行の規則では天候や日没、法律・条例等による時間制限などに適用されることとなっているので、このままでは適用することができないが、野球規則にないものを作って運用している現状と比べればまだマシではなかろうか。
たった1イニングで終わるかもしれない試合のために、応援団の宿泊をはじめ様々な手配をしなければならないのか、という意見もあるかもしれないが、高校野球の主役は誰であるかを考えた方がいい。あるいは1イニングで終わらせるなんて非情だ、と言う人もいるかもしれない。しかしこの炎天下に中1日、あるいは連日9イニング試合をさせる方が非情で酷なことだとも考えられないか。
甲子園球場阪神タイガースの本拠地球場でなければ、もっとゆとりある日程を組めるのかもしれないが、そうだとしても応援団の滞在費負担などが膨れあがってしまうし、非常に難しい問題である。しかし難しいからこそ、高野連はしっかりと取り組まなければならない。選手を不幸にしたくないと考えているなら、特待生問題などよりよほど重要なことのはずだ。

*1:アホみたいやけどすごい実績の持ち主。この25奪三振がきいて、夏の甲子園1大会最多奪三振記録(83)保持者

*2:Vゴールとかサドンデスとかいう呼称は過去のもの?