向き不向き

人には向き不向きというものがある。それを更に分解すれば、能力的・性格的な面では得手不得手、感情的な面では好き嫌いということになるだろうか。この能力面と感情面が同じ方向を向いていれば文句なしに幸せだろうが、そうでない例も少なくないだろう。自己分析がうまくできていなくて、客観的に見たら優れているのに自分では苦手意識を持っていることが原因だったり、逆に「苦手だとわかっちゃいるけど○○にあこがれて」「得意なんだろうけど○○業はチョット…」なんてのが原因の場合もあろう。今から就職活動に挑もうとする人には、ぜひ自己分析をきっちりやること、そして業界に対する先入観をなるべくなくすためにしっかり研究することをオススメする。
さて、こんな堅苦しい話をするためにこんなタイトルにしたわけじゃない。ある業界ではかなりの成功を収めつつ、昨年あたりから手を出し始めた事業ではまるでダメな人を見つけたからだ。
彼はJリーグプロ野球の双方にチームを持った。これは男の子が外車に憧れるのと同じようなステータスというか夢というか、「ほしい!」という感情を強く持っていたってことだろう。私だって、プロやきゅうだんとかももたろうランドあたりは絶対買うことにしている。それを現実世界でやっちまうとは何とも羨ましい話だが、まぁ金があればとりあえず手に入れることはできる。しかし手に入れるということは、以後それを責任もって運営せなあかんということ。
商売の世界では、アイデアが世のニーズに合致すればそれが途端に金になる、成果が上がる。うまく行かなければ即座に撤退して傷を最小限に抑える。アタマと手を使ってやることだから、従業員は大変であってもなんとかついて行けるんだろう。その即断即決の手法をもって、彼はのし上がってきたに違いない。
しかしスポーツの世界ではそうはいかない。選手の技術向上も、チームワークの熟成も、戦力の入れ替えも、金と時間をかけないと結果に表れない。今のソフトバンク王監督も、ホークス監督就任直後は厳しい時代を過ごした。生卵ぶつけられたりね。常勝監督だから長期政権を任されるんじゃなくて、長期政権を任された結果常勝チームが出来上がるんだと私は思う。そしてそれは、一つのチームカラー、チームとしての戦略や性格といったものが、監督からじわじわと浸透していったり、選手たちの中から徐々に生まれてきたりするものであり、今日から青!の一言で決められるものではないから。そして、ある色に染まり、全員が一つの方向を向くことこそ、選手個々の能力を超えた力の源であるから。そこにファンの応援という力を得て、ロッテや阪神はそれぞれのリーグを制したのだと思う。
それなのに、「二年で常勝チームを作る」と言ってみたり、補強に10億出すと言いながら結局出さなかったり、チームの戦術に文句を言ってみたり、三年契約の監督を一年目でクビにしてみたり。一年間できっと少しずつ浸透しつつあったであろう監督の色も、これで台無し。前監督を見守るつもりだったファンの心も裏切ったことになるし、新監督は自分の色に染める前にまず前監督の色を抜くという余計な仕事もせなあかんし、いいことは何もない。すぐに結果を求めるという彼の性格、即断即決という彼の持ち味はスポーツチームの運営には向いていないと思う。
ご本人はJリーグ終戦「私の不徳の致すところ」と言ったが、その言葉を肝に銘じて、秋の神戸と仙台が紅葉に負けず、クリムゾンレッドに燃え上がるよう、徳を積んでもらいたいものである。