次回WBCへの展望(打線編)

ここ最近、日本代表は「スモールベースボール」がモットーらしい。それを掲げて前回のWBCでは優勝したものの、内容的には大苦戦だった。そして今回の北京では惨敗と言っていい結果。選手(特に投手)の起用に非常にたくさんの疑問符がつく戦いっぷりだったとは言え、打線は機能していたとか、投手起用が良ければ勝っていたとは決して言えないのも事実。次回WBCでは方向転換が必要になると思う。
さて、ちょっと打率というものについて考えてみよう。打率3割3分といえばかなりの好打者である。いっぽう2割8分と聞けば、まぁ並の打者という範囲を出ない。どっちにヒットを期待するかと聞けば間違いなく3割3分の方だろう。でも、前者に安打が出る確率は後者のそれと比べてたったの1.2倍程度であり、凡退する確率で言えばわずか7%低いにすぎない。せいぜい10試合くらいしかしない短期決戦では、確率的にこの二者に期待できるヒット数の差は2本程度だ。調子の波、相手との相性などが未知数であることを考えれば、無視してもいいくらいかも知れない。
逆に、一発の怖さはどうか。シーズン40本の本塁打王と、10本未満の打者だと、その確率は4倍以上にもなる。これは相手バッテリーからすると非常に怖い。どこに投げても打たれるような気がする好打者よりも、投げ損ねると一発を食らうような気がする強打者。競った展開になればなるほど、後者の存在は恐ろしい。一発のない打者ならストライクゾーンで攻めることができるが、一発がある打者だとストライクを投げること自体が危険である。そうして歩かせると、今度はその走者が同点や逆転のきっかけになる。
1点差で迎えた終盤、当然「何としても塁に出てほしい」と攻撃側ベンチは願う。しかし最終的な目的は塁に出ることではなくて、少なくとも1点を取ること。守備側も「先頭を出したくない」と願うが、それは結果として無失点で切り抜けるための一つの短期目標である。先頭打者が強打者だとしたら、それを歩かせてしまっても「一発よりはマシ」と思うだろう。しかし現実には走者が出ているわけで、得点の可能性は高まっている。実際に一発が出るかどうかではなく、相手がそれを警戒することによって、打線の攻撃力を増すことになるのである。そして走者がいない状況より、走者がいる状況の方が、概して打率は上がるものだ。
国を代表する強打者を2人以上メンバーに加えることと、彼らができるだけ早い段階で長打を放つことが望ましいと私は思う。招集された強打者が最初から「つなぐ意識」なんて言っていてはダメで、しっかりと自分が強打者であることを見せつける必要がある。2割8分40本の打者がただ単打を狙っても何も怖くない、ただ長所をスポイルするだけだ。強打者という看板と、長打を放つという現場での実績とが相手に恐怖心を与え、後の試合を有利にするだろう。もちろん、長打が出るというのは実際のダメージも大きい。日本もこの五輪、勝った試合全てで本塁打を放っているし、大事なところの被弾で負けているんだから。